2014年03月20日

親の恩

学び舎よりあまたの子巣立つけふこのごろ。吾が一女一男はおのおの大学高校、次が年こそ揃ひておはりの年を迎ふことなれば、制服、袴の若人まゑに吾しみじみ思ふことあり。

吾と吾が妻、おのれの若きころ振り返るに、吾が子ほどのに、楽しげなる様子、学びに勉めし日々はなし。なれば吾と妻の子育て、吾が二親の育児より良きこといささか多しと。当世、物品あふれて何かと便利なれど、子育てに益すること少なし。むしろ、これに気づかずただいたづらに文明に浴さば、幼少のものからだおとろへ、こころ痩せるばかりなり。吾と吾が妻、満点にはほど遠しといへども、これ気を置きて育児に努めき。

子の生まれし折り、二親より受けし良きことは吾が子にも授けんと決め、悪しきことは伝へんと誓へるは、人の親たるものの自然の思ひなれど、悪しきあやまちをつひ継がんとしたることに気づきて悩むもまた自然のことなり。

吾もまたあやまち多かりけれど、幸いにして子に災いせしめること、思ひの上より少なかりき。

かやうなことつらつら考へるに、にはかに吾が親のありがたき思ひの募れるに驚けり。吾が親、吾が妻が親は自らに増して良き親を育てられりと申したきがその心ならむ。子育ては途中なれば未だかく申すには早やけれど、親の恩への覚へやうも様々にありとぞ感じける。
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2014年03月13日

古き人の新しき店

日の本一の建て物も新し、浪速の地は老若男女かまびすしけれど、一駅離るるに、売る商人、買う客、冷かしにうろつく人々、みな一様に年寄りの多きこと、余所のたぐひにもれず。かやうな地にありて、二年がほど前より現れたる茶店あり。喫茶店とは名乗りながら、そのおもての気合の入らざること他になし。やすき紙に屋号のみをやすき印字にて、ガラス戸に貼り付けしさまの、かへって面白き趣向と無理に思はぬでもなし。

けふ、意を決して引き戸を開けるに、やはり老婆の一人が出迎へき。客は吾より他に一人もなし。先にもひとの来れる様の無きは、チラシの折り紙なる紙袋の散乱したるていにて計れり。

とりあへず珈琲を頼みしところ、頼まぬうで卵のつまみに付きたるは、これまさに一昔の場末の店にありがちなる業なれば、いささかの感興も覚へども、殻の張り付くが如き固き茹で方に、限りなく湯に似たる珈琲、「科捜研の女」の再放送のうるさき声、全てに耐へかね早々と店を後にす。

おほかたの予想超へて痛々しきさま、珍しけれど他人にすすむべからず。
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2014年03月08日

公園にて

仕事場より近し児童公園、ブランコの童、西の方を眺めて叫びき。
「わお、夕陽がきれい!」
応へて、友の二三人入れ替はり、ブランコに立ちては同じく喜びぬ。

あな、美しは夕日にあらず君らが様子なり。

家々の隙間より眺むる寒春の落日を、おかしと覚へて皆で認むるは、人の心にあらずんば寸とも始むべからず。あることを悲しきと思ひ、嬉しきと思ふがごとく、あるものを美しきと思ひ、醜きと思ひ、心を働かすことぞ成長のはしごなる。

何処にありてもスマホ、電戯に夢中なる童の多きに危うきと思ふ今日この頃なれば、常よりあるべき小事にこそ意外なほどに気持ちの踊りけれ。

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2014年03月06日

遺伝

吾ことさらに教えへずして、子に伝はりたる習癖あり。

新聞朝刊、先ず「悩みの相談欄」より開くことなり。

男の酒癖、借金癖、嫁姑の諍ひ古今東西のことなれば、未だ減らず。当今多きは、働かぬか働けぬ息子、職場の居心地の悪しきなど、人の不幸の数々限りなし。

されど当欄、悩みに洩れなく答あり。闇に差したる一筋の光明、これを読みて一日の始まりと為すは、いかにもふさわしきことと思はざるや。
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2014年03月04日

吸ふ息も気なれば、思ひに巡るも気

ここ4日ほど、喉、鼻にイガライガラと砂の当たるが如き痛み微かにあり。

思へばPM2、5の飛び散りたる報せにぞ呼応せる。

霞か雲かと明治の御代にも歌はれし通り、今が時候にては日の下とかく雲中に似たり。もろこしの地が抱へき汚れは法外なる量なれど、霞の元なる黄砂に限りては昔より飛び来るものにて深く怖れるものにあらじ。またPM2,5に至りては、これ逆に極めて小さきものなれば、ゆくゆくのことはおほいに気に置くべけれど、いま覚へたる症状に関はりは少なし。

黄砂に混じりたる様々な毒、これの何れかや吾らが身に響けるらし。

されど、飛散の報せにすなわち反応せるは、これ気分の有様もまた疑ふべし。花粉症ひどき人、テレビにて杉の接写を見し途端にくしゃみの出らむといふ。大気も気持ちも気の文字を用ふは、此れ別のものにあれど、身中にては互ひに関はりたること説くが如し。
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2014年02月28日

バス停にて

昨日ありしこと。

初老の人、今扉を閉めんとするバスの前にいて歩きつつ近づきしが、扉の閉じし音を聞くや、小走りに立ち寄りて、危うきを省りみず手のひらにて叩きけり。

運転手いちどき発車して三寸ばかり動かすに、たまらず止めて扉を開けしか、拡声器より「早よ、走れや」の声の車外に洩れしは、故意か過ちか、吾知る由もなし。

客は神にあらねども、人なれば相応の礼と心がけをすべしと、社に訴えるべきや否や悩む所なり。

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2014年02月21日

悪語は好語を駆逐せむ

一国の頭を経し人の物言ひの、つらつらと記したるを読みて、習癖いかにも治らざりと思ふ者の多からん。

「転んじゃう云々」は、贔屓目に読まんとすれば、少々の無理あれどわからぬもなし。また、善く大事に言ひ及ぶこともあれど、ところどころに人の憎みを買ふ言の葉や混じりたる。これのみ取り上げて謗らんとする輩の多きこと、本人もまた存じてこの場にて嘆きたるは、何とも工夫なきことと断じぬべし。
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2014年02月20日

競ふ者に幸あれと祈らん

「五輪に尊むべきは、勝ちにあらず、参加にあり」とは、当今めっきり聞くことなし。いつの間に死文となりたるやも知らず、吾もまた久しく思ひ起こすことやなかりける。

これ調ぶるに、巷言ふ如くクーベルタン男爵の名言にあらず。聖公会のペンシルベニア大主教であるエセルバート・タルボットンの話ぞ源なる。

本朝より五輪に参じる人、皆おのおの艱難を超へ辛苦に耐へ、家の禄をつひやして、当代その道の頂きに立てり。この優をもって国の府は税の端を分け与ふるものなれば、その果たしたる所に与ふるものとはまた別なり。金、銀、胴の丸板は尊けれども、これを誠に尊ぶるは競ひし者本人なり。あるひは戦へど甲斐なく敗れ一に落胆せしは同じく本人より他にあらず。余人の一喜一憂は意味少なし。

さて、再び調ぶるに、真にクーベルタン男爵の言ありて、これは先より数倍良し。
「己を知り、己を律し、己に打ち克つ、これぞ競ふ者の務にして、一に尊きことならん」

後悔、反省に泣く者あらば、親き者は手を取りて立たさん。遠き者はただ静かに見るべきのみ。
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2012年11月03日

十万枚大護摩供

吾仏道に暗ければふつつかに語ることにはあらねども、いかんとも考ふるに難し。大阿闍梨、飲まず、食はず、眠らず、十万の護摩木を八日にて焚く尽くすといふ。己の苦行を「吾が身すくひたるを有難きこととして参り、災ひ悩みに苦しみたる衆生のため祈らん」とのたまふ本心、これ誰にも疑ふべからず。しかれども誠に衆生の苦悩救はんとして、斯様な業の何を以て成を果たさんや。彼の人苦しみ祈りて、何の因縁を以て衆生の救はれたるや、誰ぞ明らかにされたし。
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2011年07月31日

パラノーマルアクティビティ

テレヴィヂオン灯らぬ暮らし早や七日、一家ともどもやや慣れ始む。ただ娯楽の一つも無きぞ侘しき。見逃せし動画など、店より借り入れ楽しまんとするも、「あやしきしるし」は朝の明るき間より見るべきものにあらじ。加へて結びの五分前、いざここより大いに驚かんところ、あからさまに絵も音も止まりたり。

心の蔵は止まらず、機械のみ止まるるは、ヴィデオの呪ひにあらず。裏面の傷ゆへなり。
posted by いにしへびと at 22:18| Comment(0) | TrackBack(0) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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